2月議会2
さて先日、エネルギー基本計画の政府案が示されましたが、西川知事は「原子力の重要性について政府としての認識が示された」としつつも「政府が国民を説得して信頼を得ながらすすめるべき」と述べておられます。
そこで、国民合意のもと困難なエネルギーの大転換に挑んでいるドイツの経過と比較して思うところを述べます。
ご存知のとおりドイツは冷戦・反核・チェルノブイリ原発事故を経て、12年前に2022年をめどに脱原発を決定しました。その後、原発擁護派のメルケル首相が就任し、原発の可動を2034年までと延長したのですが、その翌年に、福島第一原発事故が起こりました。当時毎日24時間、福島から中継が行われ、ドイツ国民に大きな衝撃を与えました。
そんな中、メルケル首相は二つの委員会に意見を求めました。ひとつは原子力の専門家である技術者らが「ドイツの原子炉の安全評価」を行う「原子炉安全委員会」。そしてもう一つが「『将来世代への責任』という問いかけを中核に倫理的に原子力がどうか」ということを話し合う「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会=原子力倫理委員会」です。
ドイツには国が設置する倫理委員会の長い歴史があり、「クローン技術や受精卵の着床前テスト」など、科学技術が道徳や倫理に抵触する可能性がある場合には、学識経験者を集めた倫理委員会に提言を求めるのだそうです。
「人は技術的に可能なことをなんでもやって良いわけではない」という基本命題をきちんとふまえ、「科学と倫理のバランス」を常にチェックしています。ドイツの安全な未来と発展は「保全された環境」「健全な経済力」そして「社会的正義」の3つの柱の上に成り立つと考えているからです。
ハイテク王国日本で起きた福島事故は、ドイツでも、原発の安全性に関する専門家の判断に対する信頼を揺るがしました。そして、事故が起きるとわかった以上、もう「残余のリスク」は受け入れられない、技術者の想定能力に限界があるのだから、「原子力問題については技術偏重から脱し、社会的に広い見地から分析せよ」と、急遽倫理委員会が設置されたのです。
私は、倫理委員会のメンバーであるミランダ・シュラーズ博士から直接お話を伺いました。
「倫理委員会」の設置期間は事故直後の4月4日から約2ヶ月間で、シュラーズ博士はじめ各界から選ばれた17名の委員による集中討議とともに、「大切な議論は小さな委員会の中でやるべきではない」と、2日間12時間に及ぶテレビ公開放送を行い、150万人の国民が視聴したそうです。社会で意見の対立からの誹謗中傷が生じてきていたそうですが、委員会では違う意見を持つ相手の人格評価することなく、互いに敬意を払いながら討論するという姿勢が貫かれたそうです。
二つの委員会の結果ですが、まず「原子炉安全委員会」は、「航空機の墜落を除けば比較的高い耐久性を持っている」とドイツの原発の安全を報告しました。しかしメルケル首相はそれに従わず、それまでの方向性を180度転換、「ドイツでは、原子力発電をもっとリスクの少ないエネルギーで代替できる」「ドイツは再生可能エネルギーの開発・利用・輸出で世界をリードする」という倫理委員会の「脱原発・エネルギーの大転換」の報告を尊重し、当初の予定通り2022年までにドイツが脱原発を行う決断を行いました。